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ヴェンダース監督 福島訪問レポート

ヴィム・ヴェンダース監督は今回の福島フォーラムでの『Pina/ピナ・バウシュ踊り続けるいのち』の無料上映の前に、今は計画的避難区域であり無人となった福島県飯舘村(いいだてむら)を訪問されました。

実際に避難している民家や、設置されていたガイガーカウンターが現す放射能の数値を見たヴェンダース監督は、景色はこんなに美しく変わらないのに変わってしまった現実に大変ショックを受けておられました。

10月27日(木)、福島フォーラムでの舞台挨拶の模様をご紹介します。


【ヴィム・ヴェンダース監督のご挨拶】

やっと福島に来られてとても嬉しいです。

今ご覧いただいた作品『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』は、3月にドイツやヨーロッパで公開され、いろんな街をまわって上映を続けました。そして、どこに行ってもそこには福島という現実、福島という街の現実が平行して存在していました。自分の中でどこにいっても思い出すこの街に、絶対に出来るだけ早く来たいと思っていました。

今夜は来てくださって本当にありがとうございます。


【お客様との質疑応答】

Q:映画にも登場する、「自分を見失わないように、踊り続けなさい」というピナ・バウシュのメッセージがありましたが、福島県民、そして日本国民全体が、恐らく今自分を失ってどうしたらよいのだろうと途方に暮れている状態だと思います。

そんな時に自分を見失わずに踊りなさい、生きて行きなさい、というメッセージを含め、この作品は今のこの福島の地に最もふさわしい映画だったと本当に思います。

A:私たちみんな踊っているんです。一人で踊っているのではない。時々踊り続けるのは辛くなります。でも踊り続けることはわたしたちにとって良いことだと思っています。

きっとだからこそどうしてもみなさんにこの映画を福島で上映したいと思ったのと思います。だからとても嬉しいです。


【ヴィム・ヴェンダース監督から観客のみなさんへの質問】

Q:みなさん、どうしてますか?私は、我々は、どうしたらみなさんの助けになりますか?

みなさん本当につらい日々、厳しい経験のまっただ中にいるはずです。我々が何か手助けが出来るのか、教えてください。

A(お客様からの答え):放射能の問題、そして家族が一緒に住めない状況。ロードムービーのように行き先を決められないままさまよっている状態です。子供たちやお母さんが避難して大切なものをふるさとに残していく。送り出すお父さんは、もう家族と一緒に過ごせないんじゃないかと抱く不安。

そんなとき、今日の映画のようなアートや身体の動き、きれいなものを通して、時間をかけて味わいながら考えていくことで、何か解決策が見えてくるのではないかと思うのです。

この厳しい状況そのものを見つめるのも大事。
今まで大切にしてきた感覚やアートと一緒に考えたい。

だから、監督の仕事をそのまま続けることで、この事態をどのように受け止めて、監督がどのように表現し、作品にするかを楽しみにしています。それを力にしたいと思っています。



ヴィム・ヴェンダース監督の言葉】

今日、飯舘村(いいだてむら)に行き、正直今まだショックを受けたままで何も言えません。

私の慣れないことが心の中に起きました。私は映画作家としてこれまで自分の目をずっと信じてきました。

今日、夕日が沈む時間、飯舘村のたんぼを前にたたずんでいました。目の前にあったのは美しい景色でした。そして香りも。本当に美しい新鮮な空気でした。アヒルの声も遠くから聞こえてきて。私の感覚/五感はここは天国のような場所であると言っていました。

しかし、ガイガーカウンターが示している数字はその逆でした。

私は映画作家であるのに、初めて自分の目が信じられないと思いました。

そのため、実際にこのような状況をどうすればよいのか、自分の中で時間がかかることなのです。私がどのように受け止め、どのように表現していくのかについては、持って帰りたいと思います。

私の五感が知らせていることを信じるのだけれど、それが違っていたとするとどうしたら良いのか。
絶対に二度とこのようなことがあってはいけないと、世界に知らせる責任がみんなにあると思います。

その責任をみんなが全うするという気持ちでいるなら、私はどんなことでも手助けしたいと思っています。私はみなさんと会話を続けるべきであり、これからも話し合って行きたいと思っています。

カサブランカの最後のシーンにあるように、今日がこれからの友情の第一歩だと思っています。みなさんとの友情をここで築けたと思うのでこれからは続けていきたいと思うのです。

今日は、最後の福島訪問ではなく、初めての、第一度目の訪問です。これからも是非受け入れてください。



ヴェンダース監督TIFF舞台挨拶&記者会見レポート

『Pina/ピナ・バウシュ踊り続けるいのち』が、10/25(火)に第24回東京国際映画祭の特別招待作品として上映され、5年ぶりの来日を果たしたヴィム・ヴェンダース監督が上映前の舞台挨拶、そして記者会見を行いました。

ヴェンダース監督が語った映画完成までのいきさつ、3D技術に関する可能性、そしてピナへの思い…
映画ファン必読の記者会見の内容をご紹介します!

 
 

1985年に初めてピナ・バウシュの舞台を観た瞬間、これほど美しいものはないと感銘を受け、「あなたの映画を一緒につくらせて」とピナにお願いしました。その頃からずっと、理由もなく心からこの映画を創りたいと思っていました。ピナも熱心に創ろうと言ってくれていましたが、どうすればピナのダンスを映像化できるのか、その術がなかったため、ずっと模索していました。ピナの舞踊は観る者にその美しさがどんどん広がり蔓延するものだと感じていたので、映像化したい私の気持ちと、実際の映像化の間に大きな溝が出来てどうして良いか分からない状況でした。

60年代に3D技術が現れたものの、すたれていき、その存在を私は忘れていました。しかし、4年半くらい前に新しい3Dのデジタル技術が登場し、私は「これがこの映画を撮るための秘密兵器だ、これが答えだ!」と感じました。ピナと二人でやっと映画を創れると思った矢先、彼女が突然の死を遂げてしまい、私はもっと早く映画創りをスタートすべきだった、3D技術の到着は遅かったと思い、私はそこで映画を創ることを一度断念しました。
しかし、ダンサーは彼女の死後も踊り続け、私も撮ろうと思ったのです。ピナ無しではこの映画は創れないと思っていましたが、ピナのために、私はダンサーたちと一緒にこの映画を創ることが出来るのだと思いました。

実際、私自身もダンスや踊りに興味は無く、クラッシックバレエやモダンバレエを観ても心に触れることがありませんでした。しかし、約25年前、ピナの舞踊「カフェ・ミュラー」を初めて観た時、私の人生を変えました。

踊りを観始めて5分で私は泣き、そしてその後もずっと泣いていました。その踊りは新しく、そして圧倒的で、心を揺さぶるものがありました。脳ではなく、肉体が感じているのは確かでした。ピナの作品は人間とはどういうものか、少しずつ理解を深めるものであり、他の舞踊、振付と全く違う点は舞踊が彼女自身の言葉であるということです。「私のダンサーたちがどう動くかには興味がない。何が、ダンサーたちをどう動かすのかには興味がある」というのがピナの言葉です。

 ピナはカメラの前には立ってくれませんでしたが、ピナの視線に立って描くことは出来ると思い、創ってきました。ピナをどう撮るかということは、全てダンサーたちの中にありました。20年、30年、ダンサーたちはピナの目となり気持ちを表現してきました。ピナはダンサーたちに質問をし、その答えをダンサーたちは言葉ではなく踊ることで答えてきました。ピナは人間とは、魂とは何かを探り、そして掘り下げていました。ダンサーとは、私たち一人一人であり、ピナが投げかけた質問にダンサーたちが反応することは、人間性を表現しているものだと思っていました。

 この映画はダンスに興味が無い人に観てもらいたい。自分もそうでしたから。この映画は3D技術が無かったら創りませんでした。ダンサーたちの舞台には私は入れないと思っていたけれど、3D技術のおかげでその中に入り作品に出来ると考えられたのです。

~3Dの可能性について~

何かもっと良いことが出来るかもしれないと思わせてくれる技術だと思います。3D技術こそ、ダンスに合っていると思うし、3Dにはダンスが、ダンスには3Dが、それぞれ必要だと考えられるくらい、本当に素晴らしい出会いだと思います。手探りでやってきて、この作品はまだ第一段階です。3D技術についてはもっと探って行きたいし、これからももっと3D技術を使っていくと思います。映画作家として3D技術を使っていく責任があると思うのです。

大手の映画会社は3Dをアトラクションとして捉えていると感じます。スペースや深みを表現していないと思うのです。技術は限度だと私は思っているので、使いこなしてこそ成長すると思っているのです。そのため、あのまま3D技術を手渡してしまうと壊されてしまうと感じています。我々が映像作家として3D技術を使いこなさなくてはならないのです。アニメーションの場合はイマジネーションを駆使して3Dの利点を活用しているため例外だと思いますが、実写作品の場合は別だと思います。これまであまり活用されていませんでしたが、ドキュメンタリーにこそ3D技術は素晴らしいコンテンツだと感じました。

今回、3D技術によって、人間の身体の圧倒感、存在感、そこにあるものが今までと全く違うものとして撮影することができました。今まで撮れなかった人間とはこういうものだ、という表現です。

ドキュメンタリー映画は他の人の世界に入り込める体験だと思いますが、3D技術がもたらした存在感や表現力はドキュメンタリーのような没入型の映像には一番ふさわしいと思いました。ドキュメンタリー作家もこれから3Dを使っていくべきだと思います。

 ピナ・バウシュ、そして本作にはヒーリング力、癒す力があると思います。

今回、東京で一足先に本作を上映出来ることになって、私はそれなら福島でも是非、とお願いしました。その願いが叶い、福島を訪問出来ることとなりました。訪問の際は、福島の方とお話をしたり、車で実際に現地を回り、実際に現地の様子を見たいと思っています。

自国ドイツは今回の震災の件から、原発を廃止する決意をいたしました。今回の震災は、未来にとって大変な教訓になったと思いますし、みんながそう思ってくれていたらと思います。


『Pina/ピナ・バウシュ踊り続けるいのち』



監督 / 脚本:ヴィム・ヴェンダース
CAST:ピナ・バウシュ/ヴッパタール舞踊団のダンサーたち
2012年2月25日(土)よりヒューマントラスト有楽町、新宿バルト9他全国順次3D公開